川口マーン恵美さん 著作

実に感慨深い本である。
ドイツに住んで20数年の著者が、「福祉大国の終末」「EU加盟」「ベルリンの壁、東西統一の誤算」などの国家的問題から、「ゴミのリサイクル」「ヨーロッパ下位の教育レベル」「離婚観念の変化」「メディアの流行におかされる子供たち」と言った社会問題を、外国人として客観的に書いた本である。
客観的と言っても、著者自身はドイツ在住なので、年金や医療保険、子供たちの教育問題に直面している。

一章、一章は読みやすいのだが、とりあげている問題が深く、かつ日本の問題と似通っている点が多いので、一つ一つ考えて読んでいたためにとても時間がかかった。

その中でも一番興味深い章が、「福祉大国の終末」である。
理想と現実。福祉国家は、出納の収支があっている間は理想と現実が同等であるが、景気が落ち込み、失業者が増えると、福祉の援助を受ける人間は増加するが、税金や社会保障費を払い込む人間の数が減少するという悪循環に陥る。
これは、日本の年金や保険も同じで、少子化や失業率の増加により入ってくるお金より、社会保障で出て行くお金の方が増加する。
それを誰が負担するか?
サラリーマン、労働者はもちろんの事、まだお腹に宿ってもいない子供に税金が圧し掛かっているという事だろう。

ドイツの年金制度は、2002年に軌道修正を始めたらしいが、それまでは、定年後は死ぬまで最終賃金の70%が保証されており、少子化もさる事ながら、寿命の延びに従い、年金受給者も増加の一途を辿るという状況の悪化。しかも失業保険は、最終賃金の60%、低所得者には生活保護が加算され働いて得る賃金と変わりなく、給付期間は無期限っ?!これも「アジェンダ2010」という改革に織り込まれているのだが、驚くべき処遇っ!

実際、私達も健康はともあれ何歳まで生きるかわからない。
150歳が平均寿命なんて事もあるのかもしれない。
その時に国が何かを保障出来るという核心は無い。
今年から始めた貯金は、手を付けずにおくべきか...。

この本は2004年に発行されているので、それから4年後の今、ドイツはどう変わったのだろう。この本の続きが是非読みたいと思う。