飛行機、機内持ち物検査。

兄は恒例のPCグッズを仕分けして籠に入れるにも関わらず、ピンポントラップに引っ掛かるはずなので、
ノンビリ行こうと隣の列に並んでジャケットを脱ぎ始めると、スタスタと歩を進める兄。

「あれ?仕分けは?」
兄「今日はiPad置いてきた」

ぬ?
遠ざかる兄の背を見ながら、もたつく自分。
ようやくジャケットを脱ぎ捨て、カバンを籠に乗せて列に並ぶと、既にパススルーした兄が遠ざかる。
い、一発合格?!
今まで、過去98%の確立でピンポンに絡まる兄が、顔パスVIP並みに探知機を通り抜けてしまった。
係員に袖の下でも握らせたか?!

一方こちらは、前のオジサンが荷物の仕分けもジャケットオフもせずに並んだため、
探知機の前で、係員に「上着脱いで下さい」「携帯出してください」など指導されている。
ちゃんと手前の整理場で準備してから並ぼうよぉ・・・
心の小さい器が愚痴で溢れる。

兄から遅れる事数分。
ようやく合流して時間を見ると搭乗開始30分前。
おぉ?!!!
奇跡の待ち時間が!!!
しかし、我々の飛行機は、一番奥のターミナルまで進まねばならないので油断は禁物。
とりあえず向かいながらチラチラと食べ物を見る。

「毎回喰らいっぱぐれるので、今回は、き、君の分までオニギリと菓子パンを買ってきているのだが・・・」
上目使いで恐る恐る兄に告白すると、
兄「ふん。そんな添加物たっぷりの物なんて喰らえるか!!」

は、はうぅうううっ。。。
時間がたっぷりあるという状況に勝ち誇るかのような発言が飛び出した。

自分のストーリーでは、
「ふぅ。今回も時間ギリギリだったね!全くもう・・・またピンポンでモタモタしてぇ。
ま、こんな事もあろうかとぉ・・・じゃ〜んっ!!!
今回は腹減りんMAXにならないように事前に食糧を調達して来ましたぁ〜っ!!!」
兄「おぉ!!流石良く出来た妹よぉ!!」
-完-

と言う美談になるはずだった。
なのに!今回、ことごとく空回る自分。
2人分にしては少ないケド、せっかくお買い上げした食糧たち。
それがまさに今、お荷物の何物でもない物に変わろうとしている。

「と、とりあえず、もしかしたらいらないと言う可能性もあるかなぁと思って、
食糧オニギリ2個と、菓子パン2個あるからさぁ。。。」
兄「自然食材の物をワシは買う」
取りつくしまも無く、ターミナル付近の売店に足を向け、ここぞとばかりにコンビニ調達へ蔑む兄。

そもそも君が自然食品趣向なんて初耳だぞ、おい!
この潰れかけのメロンパンはどうしてくれるんだい?!
大好きなメロンパンを、半分分け与えてあげようと言う、妹の行き場の無い心意気はどうしてくれるんだい?!

しょんぼりと肩を落として兄の後ろについて行く。
意気揚々と食糧調達する兄。
「けっ、それにだって添加物入ってるじゃん」
更に小さい心の器が波打つ。
負け惜しみがてらに兄の精算時を見計らって自分のジュースを紛れ込ませた。

毎回小走りで駆け抜ける通路をゆったり歩く。
何だか人でごった返している。
この辺りのターミナルは、九州方面と札幌行があるらしく、どうやら人混みは札幌行の便を待てしている様子。
しかもリクルートスーツのフレッシュさん達がワラワラ。

「ぬぅ・・・入社式かなぁ?就活?入社前研修?」
あまりの団体さんなので、オニギリを頬張りながら兄に問う。
兄「いや、あれはラーメン食べに行く団体だな。」
「ぬ?ラーメン食べにわざわざこんな時間に?」
兄「そう。だって、見てみろよ。奴らはラーメン食べに行く顔してるだろ」
とんだ偏見である。

その後も「ラーメン食べたそうな団体」が、彼の中で嵌ったのか、
ことあるごとに「ラーメン食べる顔」を連呼する兄。
我等兄妹は関西の血が入っているからなのか、一度クスリと小笑いでも起ころうものなら、
孫の代までそのネタを離さない悪い癖がある。
恐らく、今後何かの団体を見かけた時は、兄は確実に
「ラーメン食べる顔してるから、ラーメンを食べに行く団体」
として含み笑いを取りに行くだろう。

「それって面白いかい?」
いえ、全くのダダ滑りだが、兄は自己満足で大爆笑するのだ。
その笑いが、人々の想像を100倍超えるのでつられてこちらも笑いが込み上げてしまうのだ。
所謂、実写版笑い袋といったところだ。

今回、いつもより混んでいると思っていたが、実際はいつもと同じ状況で、
毎回滑り込みセーフ組の最終乗客者な我々にとって、待合席での人間ウォッチングなんて初めての経験。
舞い上がっていたと言う事に気づくのは、まだ大分先の2人であった。